僕らは空を見上げるために生きている

朝5時くらいに目が覚めた、少し隙間を開けておいた窓から流れ込む冷たい風と、多分それにともなった悪い夢のせいだ。硬直した身体の向きををやっとの思いで変える。 起き上がって、ゆっくりとフィルターコーヒーを淹れて、目玉焼きを作って食べた。 外は晴れ…

Life goes on, CRUELLY!

家にいる時間が長くて、特にやることもない。 パソコンやスマホの画面を見続けることにも飽きた。 酒を飲む機会が増えて、煙草の本数も増えて、胃の調子がおかしい。煙草を吸った後に、軽い吐き気がある。 街は、通常のように戻っているが、自分の生活は3月…

Dreaming of You

一人で考える時間が長いと、なんだか昔に戻ったみたいだと思う。 ことがあるごとに何かを考えていた。 そのときを思い出すと、生ぬるい春の日射しを黄色い自転車で走ったことや、霧っぽい夜道をほろ酔いながら歩いた光景が浮かんでくる。 昔、気が狂ったよう…

あれから

あれからずっと考えている。 料理を作っているときとか、皿を洗っているときとか、シャワーを浴びているときとか。 自分は悲しいんだろうか、涙は出かかって出ない。 一体何が悲しいのだろうか。 今まで誰かが亡くなったときに、それを電話で聞いたり、文面…

祖父の死

祖父が亡くなった。 97歳の大往生だった。 ときどき身体の痛みを訴えながらも何度も回復し、自炊して食べるほど健康だった。2週間ほど前に腰が痛くて自宅で横になっているという話だったが、両親が会いに行き、食事を用意すると十分に食べ、少し体調もよくな…

曇りの春空

早朝から雨がベッドの真上にある天窓を叩いていることを気にしながら、半分眠りにつきながら横たわっていた。 充電していたスマホが机の上でアラームを鳴らしていて、やれやれと思いながら立ち上がってアラームを止め、そのままSoundCloudを開いて、適当なミ…

不思議な世界

少し用事があったので、近くに住むクラスメートたちと駅で待ち合わせた。今日はことさら風が強かった。 彼女らは寮から2キロほど歩いてきたみたいで、約束していた時間通りには来なかった。 このターミナル駅では外出禁止令でそれでこそ人は減ったが、それな…

帰れぬ人びと

日本からヨーロッパに向けて旅立つとき、それは七月の終わり頃、まだ蒸し暑さもない、さわやかな夏の初めだった。 文学好きの大学の友人が餞別として本を送るということだったが、結局出発までには間に合わず、さらに数か月が経って、僕がウィーンにいるとき…

ブダペストのチャイニーズ・ショップ

朝から二日酔いの終わりかけのような頭痛が治らなかった。 その前日には、はるばる日本から来てくれた兄夫婦と兄の奥さんの母と一緒だったウィーン、ブラティスラバ、ブダペストの中欧三都市をたどる旅行も終わりを告げ、ブダペスト東駅で見送ったばかりだっ…

太陽をなくす

金曜の授業のあと、クラスメートと先生と一緒にスーパーマーケットでワインとプレツェルを買ってきてウィーン10区の新興住宅地の公園にあるベンチで飲んだ。先生は泊まっているホテル(大学のキャンパス移動の件で、毎週ブダペストから通っている)備え付け…

ウィーンより

ウィーンに来て3日目。 今日は朝から曇っていて、ちょっと前まではブダペストでTシャツとジーパンだったのに、こちらに来てから少し肌寒いのでオレンジ色のトレーナーを来て外に出る。 昨日の夜遅くまで授業で出された課題の文献を読んでいたけれど、結局読…

気分は初夏の風のように

家のリビングルームから見える小さな庭は、新緑が強くなりつつある太陽光を透過することによって生まれる、柔らかな影に満ちている。 影たちは穏やかな風に靡き、つがいのアゲハチョウが何処かから舞ってきては、何処かに去っていく。 お気に入りの黄色い自…

夜にカーテンを開けて

静かな夜。 一人で部屋にいても、隣に誰かが寝ていても、 ふと自分がこの世界に、たった一人なんだと思うことがある。 そんなときは、けだるそうにスマホの画面を付けて、 その眩しさに一瞬だけ目を細めて、明るさを調整してからSNSを見てもいい。 そこには…

勉強をしていた日々

大学入学当初に行った近くの海 海外の大学院入試のための英語の試験を何度か受けてみたが、若干足りなかったりして今でもまだ対策を続けている。 二月後半は引っ越しとか、いろいろ用事があって、なかなか英語の勉強に専念することが出来なかったため、今追…

そのとき、絶対的になること

ある日のブランチ。マッシュルームのオムレツとアボカド。 二度寝をしてしまった。寝過ぎで頭が少し痛い。 ブランチでトーストとドリップコーヒーを飲んで、英語の勉強に取り掛かろうとしたけどやる気が出ない。頭が痛い。それに全身が重く感じる。 外の空気…

「あなたは何をやりたいんですか?」と「普通の人」

僕たちは常に呼びかけられる。 「あなたは何をやりたいんですか?」 例えば、日常的な会話の中でもそうだし(特に大学の同期以外の人、家族とか)、自己啓発本(読んだこともないけど)、大学院入試や様々な面接において問われる。 なんなら、物心ついたとき…

一月

一月を振り返ると、卒論の追い込みと、大学院のための研究計画にかかりっきりだった。 まあ、適当には飲んでいたり、休憩をはさみはしたのだけど。 普段から文章を書くこと自体は嫌いではなく、自分の感情が文章に乗ればとても良い気分がする。誰かからの反…

メリー・クリスマス

クリスマスと聞けば、それはフィルムカメラで撮られた、彩度が不調和で少しぼやけたような写真が思い浮かぶ。 去年のクリスマスは留学先の大学は休みで、確か氷点下のブダペスト訪れていた。曇った仄暗いブダペストの街の中で、クリスマスマーケットの明かり…

石になった父

いつからだろう、父が石になったのは。 あることを言っても、同じ話しか返さない。 それ以外のことに至っては、まるで反応がない。 40年ほど会社員として勤めてきて、今にも辞めてやる、と豪語していた父はどこに行ってしまったのか。 海と山が好きだった父…

秋と冬のあいだ

寒さが始まろうとしている晴れた日の午後。 そんな日の一つひとつの瞬間が愛おしい。 斜めになったやわらかな陽に誘われて、壁にうつった梢はゆれている。 長くなってきた前髪が細めた目に届く光を優しくしている。 地面の湿った感じとか、踏むとかさかさと…

「理解」に関する積極的不可知論

理解など誰もできなくて、それを求めれば求めるほど理解なんてされない。妄想が崩れ去ったことへの苛立ち、身をよじるだけ。 僕たちには積極的な不可知論が必要だと思うんですよ。 それはある意味、理解なんてされないのだ、という諦念ともいえるのかもしれ…

雨の沖縄と祖母

沖縄での2泊3日旅行から帰ってきた。沖縄はずっと雨が降ったり止んだりだった。 なぜ沖縄に行ったのかというと、普通に家族旅行でもあるのだけど、母の里帰りも兼ねていたからだ。 母は沖縄で5人兄弟で唯一の娘として生まれ、高校を卒業するとすぐ、沖縄から…

イスタンブールの朝

騒がしい音楽と隣合わせだったホステルの一室も朝には静まり返り、日に焼けた旅人たちの静かな寝息だけが光の差し込み始めたドミトリールームを満たす。 開けっ放しの窓のせいで冷え切ったバスルームで熱めのシャワーを浴び、長くなるであろう1日に思いを巡…

かもめ

君が遠くを見つめて指さす 「陸が見えるよ」 イスタンブールの風の強い港から船に揺られてきた 焼きとうもろこし売りと釣り人たちが集う港から 小さめのフェリーの中の人は夕陽の中で微睡んでいる 船先には太陽が海面に反射して眩しい 僕たちは手を繋いで2人…

最大限の音量で、退屈がなくなるまで

いつものイヤホンではなくて、部屋にある古いヘッドホンで音楽を聞いてみる。 ベースとドラムがまるでそこにいるように聞こえる。 ギターのアンプの前にいるように音は震える。 * * * 真夜中の帰り道、買ったばかりの自転車を飛ばした。 蛋白質が白く固ま…

悪魔

悪魔が心のどこからか現れる。 それは僕の悪魔だ。 どんなに貴方のことを思っていて、貴方のために良いことをしようとしたって 僕の心に悪魔はやってくる。 邪悪な心が俺を誘惑し、思考は無化する。 他人を傷つけ、自分を傷つける思考が次から次へと自分の頭…

Too beautiful to forget

留学中、同じ寮の同じ階に住んでいたスペイン人の女の子と久しぶりにメッセージのやり取りをした。 彼女はすれ違うといつも「マサ!」と笑いながら挨拶してくれて、たまにキッチンで会うと少しだけ長めに話をした。 彼女はいつも笑って、楽しそうに生きてい…

正しいこと

例えば「真実」が大切な人を傷つけるとしたとき、それはもはや真実ではない。 より正確に言えばそれは正しさではない。 僕は誰にとっても当てはまるような真実や正しさのようなものを求めて、科学だったり知識だったりを渇望してきた。 ときにはそれを振りか…

さあ、スタジオへ行こう

日本に帰ってきて友人と飲んでいるとき、ふと気分が良くなって埃の被ったエレキを手に取る。 軽くチューニングをしてから指が覚えているフレーズを爪弾く。 「何か一曲くらいスタジオ入ってやってみるか」 ベースをやったことのある友人と、いつの間にかそん…

夏の終わりの夜と風

夏は夜からその終わりを露わにしはじめる。 夏が終わることはいつになっても寂しくて、それは数年間使っていたアパートの部屋を引っ越すときみたいだ。 ひんやりとしてきた風は危なくて、僕はうっかり窓から身を乗り出しそうになる。 昔通っていたスイミング…