ウィーンより

ウィーンに来て3日目。

今日は朝から曇っていて、ちょっと前まではブダペストでTシャツとジーパンだったのに、こちらに来てから少し肌寒いのでオレンジ色のトレーナーを来て外に出る。

昨日の夜遅くまで授業で出された課題の文献を読んでいたけれど、結局読み終わらなくて、自分の関心に近い文献(フィリップ・デスコラの文化/自然の4分類に関して)は少しでも目を通しておこうと思って早起きして、オートミールに牛乳を入れてものと、もらったばかりの葡萄をつまみながら文献を読む。

オートミールは牛乳をいれて電子レンジで温めると、とろとろとしたお粥のようになって美味しいのだけど、このアパートには電子レンジがないのだった。IHの電源を入れて、鍋で調理してもいいのだけど、フラットメートを起こしたくないのと、単純に面倒だったこともあって、乾いたオートミールに冷たい牛乳をいれてそのまま食べたが、ボソボソしてあまり美味しくなかった。

文献の内容は元々知っている内容だったのだけど、英語で読むとあまりすんなり頭に入ってこなかった。

そんなこんなをしていると、既に授業開始まで40分となっていたので急いで支度を済ませて、部屋を出る。

5階から階段ですたすたと降りて、トラムの駅を目指す。車の多く走る大通りを横切ると、ブダペストと比べて排気ガスと煙草の匂いがしないことに気が付いた。

前日の夜に散歩がてら買った定期券を持っていたので、そのまま乗る。木で出来たシートに座ると、少し体が冷えた。

トラムには色々な人が乗り込む。仕事へ向かうような大柄の男性、スカーフを被った女性、子供、大学生風の若者。

トラムに乗っている中で、たった一回きりチケットに刻印する人を見たけれど、皆定期券を持っているのだろうか。それともキセル乗車をしている人も結構いるのだろうか。

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大学に着いたは良かったが、新しいキャンパスの教室の場所が分からなかったため、エントランスでうろうろしているとクラスメートがやってきて、事務の人に聞いてくれたので、2階に向かう。

エレベーターに乗ると、PhDの学生のおじさんが一緒だったので少し迷いながら一緒に教室に入る。先生がここだよ、と教室の前で待ってくれていた。

フランス出身の先生の語り口はユーモアを常に交えながらも、自分の考えを共有するようで面白かった。スライドがやけに若いデザインだったのと、全て大文字で書かれていたので読みづらかった。

授業の途中からやけに空腹を覚えたので、休憩時間にもってきていたパスタとサラダを半分くらい食べた。

また別の授業があったので、別の教室に行った。その授業は社会学の古典を読むので、今回の授業はマルクス資本論だった。たった一部だったけど、クラスメートの発言や先生の言っていることを全て理解できたわけではなく、少し劣等感を覚える。

授業が終わると残りのパスタとサラダを食べて、外に煙草を吸いに行く。クラスメートがいたが直ぐに中に戻ってしまったので、一人で吸った。

外は雨が降って風も強かったので、早く帰ろうと思い、ちょうど来たトラムに乗る。部屋に戻るとフラットメートが起きていて、色々と話をした。誰かと話をすると、落ち着く。

彼はバルコニーの枯れた植物を整理していたそうだ。部屋の中にあった丸い葉っぱの観葉植物が株分けされていて、もともとあった大きな株はキッチンのシンクに置かれていた。彼の友人がつい最近赤ちゃんを産んだから、お祝いにこの植物をあげるのだという。ついでなのか、新しい鉢にバジルが植えてあった。もう少し育ったら料理に使おう。

フラットメートは粟のような穀物を茹で、そのあと野菜や卵と混ぜてオーブンで焼いていた。食べていいよというので、小さなものを一つもらった。

少しすると元気の良さそうな女性の声が聞こえたので、きっとその新しい母親なのだろう。

身体が冷えていたので、また翌日の授業のための別の文献を読みながらベッドに入る。少しすると眠くなってきたので、そのまま昼寝をする。

気が付いたら夕方の6時になっていた。3時間くらい寝ていたのだろうか。身体は温まり、喉が渇いていたので調子は良くなったのだと思った。

マルチビタミンのフルーツジュースと、2日前にスーパーで買ったジャスミン茶を飲んで、また文献を読み始める。

一つの文献が終わったところで再びお腹が空いたので人参をスライサーで削り、クミンとオリーブオイル、クルミと一緒に調理する。

アボカドとオムレツを添える段階でフラットメートがキッチンに来たのでそれぞれ作ったものを食べた。

彼はどこかに出かけたので、自分はコーヒーを入れて文献を読もうとしたが、集中できなかったので、パソコンを開いてTwitterを見た。この時間になると日本の友人、知り合いのツイートはあまり出てこないので少し寂しい。

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バルコニーに出て、外の景色を見た。雨はもう上がっていて、風が冷たい。手を触れられるほど近くにある大きな木は風に揺れていた。こんなアパートの立ち並ぶ中にも大きな木があるんだな。でも、数十メートル先には糸杉のようなさらに大きな木が植わっている。その木もまた風に揺れている。

バルコニーからはアパートところどころの部屋の明かりと人影が見える。一つ一つの生活は僕の知らない間にもここにあったし、僕が年末にここを去ってもまた続くのだろう。ずっとここに住んでいる人、去る人、新しく来る人。

冬が来るな、と思った。今年はどんな冬になるのだろうか。身体が冷えてきたので部屋に戻って、窓をがちゃりと閉めた。

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