「夏のせいだ」

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カミュの『異邦人』の有名な一節

殺人の動機を問われて主人公は以下のように答える。

 

「太陽が眩しかったから」

 

彼は事件に巻き込まれるような形で人を殺めてしまうのだが

それにしてもこの答えは奇妙だ。

実際このことや母親の死への無関心さから冷酷な人間として扱われ死刑が宣告されてしまう。

 

僕も初めて読んだときにこれを主人公の無気力として捉えるとともに

主人公の気持ちが全く理解できなかった。

なぜちゃんと状況を説明しないのか。説明すれば死刑になどならずに済んだかもしれないのに。

 

しかし人間にはそうとしか答えられないときもあるのかもしれない、と今は思う。

 

もちろん何かが起こったときには様々な原因と状況がある。

トラブルに巻き込まれたから、相手が迫ってきたから…

でもそれらを組み合わせたところで、なぜそれを「自分が」してしまったのかということの理由にはならない。

 

「なぜ君はそんなことしたの?」

 

質問は罪だよ。

本人だって答えられないときがあるのだから。

 

そんなとき「太陽が眩しかったから」とか「夏だったから」という

一見的外れな答えが一番の説明となったりする。

そしてそこには自分を赦すことの希望がある。

 

太陽のせいだ。夏のせいだ。

 

さあ赦そう。どうせ世界は不条理だ。過去はそんなものなんだ。

異邦人 (新潮文庫)

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