最大限の音量で、退屈がなくなるまで
いつものイヤホンではなくて、部屋にある古いヘッドホンで音楽を聞いてみる。
ベースとドラムがまるでそこにいるように聞こえる。
ギターのアンプの前にいるように音は震える。
* * *
真夜中の帰り道、買ったばかりの自転車を飛ばした。
蛋白質が白く固まるみたいに受験勉強で煮え切った脳ミソを抱えて。
夜の道路はいつもと違って車も走っていなければ人っ子一人歩いていない。
消えかけの白く光る街灯が地面を照らしているだけだ。
大音量で音楽を聞きながら街灯の白い光を突き破るようにどれだけ速く走れるかだけに夢中になっていた。
ひょっとしたら横道から車や何かが飛び出してきて轢かれるかもしれない。
そんなこと関係なくて「死んでしまえばそういうことだったのだ」と言っただろう。
* * *
音楽は小さい音楽で聞くほど詰まらないことはない。
それならばいっそ、それを棄ててしまえ。
スマホがご丁寧に教えてくれる
「これ以上音量を上げると耳を傷める可能性があります。それでも上げますか。」
俺は「OK」を押して音量を上げる。
「真空管はその中に稲妻が走るくらいに電圧をかけたほうが鳴るんだよ。」
俺は一人でにやける。
走って、回転のし過ぎで空中分解するまで。
最大限の音量で、退屈がなくなるまで。