大切なものを壊してしまうこと
大切にしてきたものを壊してしまいたい。
今まで大切にしてきたもの育て続けてきたもの
そんなものは床にぶつけて粉々にしてゴミ箱に捨ててしまえばいい。
たとえそれが一瞬魔がさしたというだけであっても
それに後悔はしない。
いや、こんなことしてよかったのかと壊した後すぐに思うこともある。
それでも壊してしまったのだからもとには戻らないし
壊してしまってからその破片を見れば
「何だこの程度のものだったのか」と
今までの自分が馬鹿らしく思えてくる。
昔、引き出しにしまっていた大切なもの一晩でいくつも壊した。
その一つはどこかのイベントで兄とのお揃いでもらった貯金箱だった。
何年も使い、その後も引き出しにしまっては時々取り出して眺めた。
それを一晩で壊した。
手のひらに乗せて少しだけ眺めた後、拳を握って叩き壊した。
インクが剥げてもなお笑っているキャラクターの顔は
一瞬にしてプラスチックの破片になった。
乗せていたほうの手には心地よい衝撃とプラスチックの鈍い角が当たった。
なんのこれしき。
それから続いて他のものたちも壊してはゴミ箱へ捨てた。
何年か経った後でもあの貯金箱を思い出すことがある。
あれを壊して捨ててしまってよかったのか。
思い出がまた一つ無くなったと思った。
それでも僕はよかったと思う。
あれはあの時壊してしまってよかった。
自分が軽くなったのを感じるからだ。
タートルネックが喉を温めると同時に首を締めているように
大切なものは自分の呼吸を妨げているのである。
だから大切なものは壊して捨ててしまえばいいのだ。