2018-01-01から1年間の記事一覧
クリスマスと聞けば、それはフィルムカメラで撮られた、彩度が不調和で少しぼやけたような写真が思い浮かぶ。 去年のクリスマスは留学先の大学は休みで、確か氷点下のブダペスト訪れていた。曇った仄暗いブダペストの街の中で、クリスマスマーケットの明かり…
いつからだろう、父が石になったのは。 あることを言っても、同じ話しか返さない。 それ以外のことに至っては、まるで反応がない。 40年ほど会社員として勤めてきて、今にも辞めてやる、と豪語していた父はどこに行ってしまったのか。 海と山が好きだった父…
寒さが始まろうとしている晴れた日の午後。 そんな日の一つひとつの瞬間が愛おしい。 斜めになったやわらかな陽に誘われて、壁にうつった梢はゆれている。 長くなってきた前髪が細めた目に届く光を優しくしている。 地面の湿った感じとか、踏むとかさかさと…
理解など誰もできなくて、それを求めれば求めるほど理解なんてされない。妄想が崩れ去ったことへの苛立ち、身をよじるだけ。 僕たちには積極的な不可知論が必要だと思うんですよ。 それはある意味、理解なんてされないのだ、という諦念ともいえるのかもしれ…
沖縄での2泊3日旅行から帰ってきた。沖縄はずっと雨が降ったり止んだりだった。 なぜ沖縄に行ったのかというと、普通に家族旅行でもあるのだけど、母の里帰りも兼ねていたからだ。 母は沖縄で5人兄弟で唯一の娘として生まれ、高校を卒業するとすぐ、沖縄から…
騒がしい音楽と隣合わせだったホステルの一室も朝には静まり返り、日に焼けた旅人たちの静かな寝息だけが光の差し込み始めたドミトリールームを満たす。 開けっ放しの窓のせいで冷え切ったバスルームで熱めのシャワーを浴び、長くなるであろう1日に思いを巡…
君が遠くを見つめて指さす 「陸が見えるよ」 イスタンブールの風の強い港から船に揺られてきた 焼きとうもろこし売りと釣り人たちが集う港から 小さめのフェリーの中の人は夕陽の中で微睡んでいる 船先には太陽が海面に反射して眩しい 僕たちは手を繋いで2人…
いつものイヤホンではなくて、部屋にある古いヘッドホンで音楽を聞いてみる。 ベースとドラムがまるでそこにいるように聞こえる。 ギターのアンプの前にいるように音は震える。 * * * 真夜中の帰り道、買ったばかりの自転車を飛ばした。 蛋白質が白く固ま…
悪魔が心のどこからか現れる。 それは僕の悪魔だ。 どんなに貴方のことを思っていて、貴方のために良いことをしようとしたって 僕の心に悪魔はやってくる。 邪悪な心が俺を誘惑し、思考は無化する。 他人を傷つけ、自分を傷つける思考が次から次へと自分の頭…
留学中、同じ寮の同じ階に住んでいたスペイン人の女の子と久しぶりにメッセージのやり取りをした。 彼女はすれ違うといつも「マサ!」と笑いながら挨拶してくれて、たまにキッチンで会うと少しだけ長めに話をした。 彼女はいつも笑って、楽しそうに生きてい…
例えば「真実」が大切な人を傷つけるとしたとき、それはもはや真実ではない。 より正確に言えばそれは正しさではない。 僕は誰にとっても当てはまるような真実や正しさのようなものを求めて、科学だったり知識だったりを渇望してきた。 ときにはそれを振りか…
日本に帰ってきて友人と飲んでいるとき、ふと気分が良くなって埃の被ったエレキを手に取る。 軽くチューニングをしてから指が覚えているフレーズを爪弾く。 「何か一曲くらいスタジオ入ってやってみるか」 ベースをやったことのある友人と、いつの間にかそん…
夏は夜からその終わりを露わにしはじめる。 夏が終わることはいつになっても寂しくて、それは数年間使っていたアパートの部屋を引っ越すときみたいだ。 ひんやりとしてきた風は危なくて、僕はうっかり窓から身を乗り出しそうになる。 昔通っていたスイミング…
I could be perfect, I could die. 可能性としてのcould。 どちらも果たせなかった。一瞬のモーメントはそれまで積み上げてきた犠牲、散らかった潜在性を破壊し、生々しいほどの現実を突きつける。 couldはcanの過去形だと学校では教わったけど、それが意味…
どれだけ他人を傷つけながら生きてきたことだろう。 独りの夜に、曇った朝に、僕は今まで自分が傷つけてきたこと、その事実に押しつぶされそうになる。 自分の存在など、他人を傷つけることばかりしてきたんじゃないかって思うことがある。 誰からの世話も受…
昨日言葉少なに挨拶したウクライナから来たという中年の男性はときどき考え込むように立ち止まりながら準備をしたあと、僕がパンとジャムとコーヒーだけの朝食を取っている間に出ていった。 小さな部屋に置かれた三段ベッドに残ったのはドイツ語を話す若者二…
旅をする。 君は旅に出れば誰にでもなれる。日常の君を知る人はここにはいない。見慣れた景色もここにはなくて、あの嫌な思い出も思い出さなくてすむ。遠くから来た人としてスターになれる。そうだ君は自由だ。何をしたっていい。 君は旅の中で誰にもなれな…
例えば 「あなたなんか会いたくない」という気持ちと 「あなたに会いたい」という気持ちの近さであったり、 「どこにも行きたくない」という気持ちと 「どこか遠くに行きたい」という気持ちの近さというものがある。 もっと言えば、それらは同じことだったり…
――君は自由だ、どこにでも行ける、何でも出来る、何者にもなれる。僕は若くて、これまでずっとそう思っていた。 実際は自由というのは限られていて、いくつもの制約の中で僕らは「自由」をやっているわけではあるのだけど。 でも少なくともメンタリティとして…
過去の記憶。 それは時に僕たちを楽しませ、時に僕たちを苦しめる。 「思い出はいつも美しい」と寺山修二は書いたが、そんなことはない。 美しいものも辛いものもある。 こんなに沢山の過去と記憶を背負い続けてこれからも生きていかなければならないのか。 …
先日、スペイン人の友達のお別れ会飲みがあって、スペインからの4人とナイジェリアからの留学生1人と一緒に飲んだ。 いや、別にスペインからだからって皆明るいわけじゃないと思うんだけど、この4人はそれぞれ違った方向性で皆明るい。 ちなみにナイジェリア…
日が昇る少し前、あるいは日が落ちた少し後。 自分のいる地面より少し高い場所を日が照らすことがある。 自分には見えない太陽があそこからは見えるはず。 たった数メートルの違いで自分には届かない場所。そこには別の景色が広がっている。 きっとこんな少…
「かけがえのない」なんて皆は言うけれど、それはどこにあるんだろう。 「命はかけがえのないものです。地球よりも重いのです。」 小学校の道徳の教科書ではハートマークと地球が天秤にかけられていて、ハートマークに傾いている。 毎日のように誰かが殺めら…
大切な人のことをみんなはどんな風に思うのだろう、 とりあえずその人を思う自分は、なるべく元気でいたいと思う。それはなんというか、けっこう大事な気がする。 陽気でなくていい。あくまでも元気、ぐらいで。 A post shared by 熊谷隼人 Hayato Kumagai (…
youtu.be 映画「candy」を観た。 作家志望だが全く売れない男と、画家志望だがこちらも芽が出ない美しい女性Candyの儚い愛の物語。 二人は愛とドラッグに溺れ、日々を夢のように送るが、とにかく金がなくてCandyは売春、結婚し妊娠するが流産、郊外に引っ越…
山を下り、凍り付いた大きな湖のもとに出た。 自動車もほとんど通らない道をトレッキングシューズで歩く。 葉を落とした木々に囲まれて、一軒の小さなログハウスが湖を臨んでいる。 その軒下にはバスタブやバーベキューセットなどがあって休暇を過ごす家族の…
愛は対称性を求める。 相手のことを愛すれば愛するほど相手のことが信じれなくなる。 自分が相手を愛するように、相手は自分のことを愛してほしい。 これが無限にループされることで哀しいことに愛は憎しみに豹変することがある。 このような意味で愛は対称…
人はなぜ橋に鍵をつけて愛を誓うのだろうか。 川の上を通り抜ける冷たい風が吹き付ける中で色とりどりの鍵が取り残されている。 橋が両岸を結びつけるものであるとするならば、橋は二人をつなぐ愛だ。 その橋に二人の名前を刻んだ南京錠は結び付けられる。橋…
カミュの『異邦人』の有名な一節 殺人の動機を問われて主人公は以下のように答える。 「太陽が眩しかったから」 彼は事件に巻き込まれるような形で人を殺めてしまうのだが それにしてもこの答えは奇妙だ。 実際このことや母親の死への無関心さから冷酷な人間…
なぜ人は旅をするのか。 インターネットが常に手元にあり、検索をかければどこの地域のことだって「知る」ことができる。 旅は疲れる。 おまけにお金もかかる。 それなのになぜ人は旅を続けるのか。 この2か月のほどはクロアチア、スロヴェニア、スペイン、…