秋と冬のあいだ
寒さが始まろうとしている晴れた日の午後。
そんな日の一つひとつの瞬間が愛おしい。
斜めになったやわらかな陽に誘われて、壁にうつった梢はゆれている。
長くなってきた前髪が細めた目に届く光を優しくしている。
地面の湿った感じとか、踏むとかさかさと音をたてる落ち葉とか。
雲がゆっくりと動いて、原色を水で薄めたような青色の空に溶けていく。
まだ馴染んでいないマフラーを巻いて、ポケットに手を温めて歩く人。
草花は葉先を少し枯らしながらも緑色を濃くして、これから来ようとしている冬に備えている。
僕はステファン・スティーヴンスの歌声がそんな風景に似ているかもしないと思いながら彼の優しくほろ苦い歌を聴いている。
こんな日がいつまでも続いたらいいのかもしれないけど、それは秋と冬のあいだだからこそ在るのだろう、きっと。
ひょっとしたらこんな綺麗な時間は、今日のこの瞬間だけかもしれない。
それでもいい。
僕は冷えてきた体を抱えて、暖房の効いた部屋にはいる。
こわばりがゆるんで、うっとりとする。
もうすぐ日が暮れるよ。
家に帰ったら、オレンジとシナモンと砂糖をたっぷり入れたホットワインを作ろう。
きっと何か良いことを想いだすよ。