イスタンブールの朝

騒がしい音楽と隣合わせだったホステルの一室も朝には静まり返り、日に焼けた旅人たちの静かな寝息だけが光の差し込み始めたドミトリールームを満たす。
開けっ放しの窓のせいで冷え切ったバスルームで熱めのシャワーを浴び、長くなるであろう1日に思いを巡らす。
「朝食は8時から10時まで、テラスで。」
言われた通り、8時にテラスへの狭い螺旋階段を上る。
テラスには誰もおらず、朝日が、擦り切れたトルコ柄のカウチをあたためはじめている。
外へと続く窓があって身をかがめて外へ出る。
しっとりとした空気と昇ったばかりの太陽がイスタンブールの街を満たす。
動き始めたメトロの騒音。建設中のモスクのシルエット。遠くに海が見える。電気コードで雑然としたアパートメントの屋根。海鳥が空を仰ぎながら鳴く。何処かから迷い込んだ猫。
旅中にのぼるテラスはいつだって良い。
綺麗な建物やカラフルな土産物屋だけではなく、その街の日常を見せてくれる。生活、生活、生活。
2週間以上旅をしたトルコも今日去るのだ。イスタンブールの朝は静かで、そして僕を包み込んだ。
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