Hennaの帰途

f:id:anthropology-book:20171202221810j:plain

Hennaフィンランドから来た背の高く健康そうな体形の女性で

ルバーブロンドの細い髪をところどころ青く染めている。

片耳にだけ大きなピアスホールを開けている。

彼女の部屋は僕たちの部屋の隣で僕のルームメイトもフィンランドからなので

自然と仲良くなった。

よく笑い、面白い話を表情豊かに話してくれた。

でも時々落ち込む時があるみたいで僕のルームメイトと

何時間も話していることもあった。

 

そんなHennaが今日の朝早くここを発った。

 

昨日の夜が最後だったので僕は感謝の気持ちを込めて

慣れない材料であんこを炊いて日本風のお菓子を作った。

ルームメイトはフレンチトーストとホットワインを作って一緒に小さなお別れ会をした。

 

何日か前にたまたまキッチンで会った時に

「もう毎日、みんなにさよならを言わないといけなくて忙しいの。」

と冗談交じりに話していた。

 

たった3か月しかいなかったのに沢山の友達に囲まれて楽しそうにしていた。

よく友達とスイーツ作りに失敗して笑っていた。

 

僕は珍しく自分から彼女に聞いてみた。

「ここを離れることについてどう思う?」

すると彼女は

「まあ両方の気持ちがあるかな。」と話し始めた。

ハンガリーに関しては大して思い入れはないんだけど、友達と離れるのは寂しい。

でも、フィンランドに帰ったら帰ったで楽しいことも沢山あるから。

家族と会えるし、私の馬がいるし…」

僕は「私の馬」という言葉に驚いて「君の馬?」と聞くと

「今は親のところにいるんだけど」と言いつつ写真を見せてくれた。

毛並みが良く、雄々しく走る白馬だった。

「綺麗な馬だね。」と僕は素直に褒めた。

Hennaは続けて

「それにスカイダイビングの季節も始まるしね。」

「そっか、そうだよね」と僕は相づちを打った。

 

彼女はスカイダイビングが好きでよくやるらしい。

以前話していたときには、降下中に時間を忘れて楽しんでいたら

パラシュートを開くタイミングを間違えて危なかったことや

風に流されて軍事施設の敷地に入ってしまったことを笑いながら披露してくれた。

彼女の街はロシアとの国境近くなので「ロシアに着地したら帰ってこれなくなる」

と悪い冗談も言っていた。

 

会話の最後に彼女は

「それでも友達と離れるのは寂しいから、やっぱり両方の気持ちがあるね。」

と繰り返した。

それは確かに事実であろう。

 

それにしても彼女は人生を楽しんでいるな

と僕は心から羨ましく思った。

 

ここでの生活もフィンランドでの生活もどちらも楽しんでいる。

僕は自分のことを考えるととても比べられないと思う。

でも、彼女の生き方を見て僕も楽しめばいいんだとしみじみと思った。

 

彼女は今日の朝早くにここを出たわけなんだけど

それからブダペストに友達と一緒に2,3日泊まって

スロヴァキア、オーストリアポーランド…と陸続きの一人旅をして

最後には海を渡ってフィンランドまで帰るらしい。

 

海を渡るとき彼女は何を思うのだろうか。

彼女にとって世界はどこでも楽しめる場所なのだろうけど

それでも故郷に帰るとき、何を思うんだろうかと。

 

 

 

昼過ぎに起きた僕はそんなことを想像しながらこれを書いている。

 

Goodbye, Henna. Enjoy your life.

またどこかで。


Mogwai - Take Me Somewhere Nice