Emerald Green Eyes
目を合わせるときはっとすることがある。
彼女の目はエメラルドグリーンで中心には深い黒の世界。
普段は伏し目がちに話すことが多いから目を見ることは多くない。
こちらに来て多くの人が目を見て話すから努めて目を合わせるようにしている。
しかし、目を合わせることは恐ろしい。
目と目が合ったときに自分のすべてを見透かされるような気がして、どうしたらいいのか分からなくなる。
それでも目を合わせてみると彼女のエメラルドグリーンの隙間は僕を魅了する。
いや、魅了するというよりは襲いかかってくる。
昔、国語の先生が「魅了」の「魅」には「鬼」が含まれていて、ある意味鬼のような魔力と狂気があるということをやけに声高に言っていた。
その先生は生徒からはあまり好かれておらず「ドラえもん」をもじったあだ名をつけられていて、このことを言ったときもみんな「何言ってるんだ」という程度に流していたが、僕はこのことがずっと胸に引っかかっていることを知っている。
そして、これは真実だと思う。
綺麗な宝石を見るとき、澄んだ夕焼けを見るとき、それらは僕を乗っ取り、透明な存在にしてしまう。
英語でいうとpossessionというのだろうか。
僕は彼女とつたない英語で話をしている。
次の言葉を考えるときに彼女の目を見ると、僕は乗っ取られ、透明な存在になる。
その一瞬に、例えば、彼女が僕を針で刺しても気が付かないだろう
そして、彼女がそうしても僕は構わない。
そんな一瞬が終わると、僕は次に話さなければならないことを思い出して、目をそらす。目から逃げる。
そしてまたつたない英語で話し始める。
これは僕の社会性を維持するためには必要なことだ。
彼女との話を続けるために必要なことだ。
でも、僕はそれを「もったいない」と思うのだ。
言葉などなしにずっとその宇宙に乗っ取られていたいと思うのだ。