思い出はいつも美しい?
寺山修二は言った
― 思い出はいつも美しい
― おれは歴史なんか嫌いだ 思い出が好きだ 国なんか嫌いだ 人が好きだ
* * *
僕は基本的には思い出を背負って抱え込んで生きていくのは
嫌だなと思っているのだけどこの言葉は好きだ。
そしてこの言葉を聞くと思い出も時々愛おしくてしかたなくなる。
思い出のすべては僕自身に掛かっている。
ああ、楽しかったな。
それだけで十分で、それ以上何かをして型にはめてしまった瞬間に
よそよそしくなって僕の手を離れてしまう。
それはだから共通の思い出であっても誰とも共有できないと思う。究極的には。
だから君が何かを言って僕は思い出すのだけど
それは「僕の」思い出ではないのだろうと思う。
* * *
貴方があのときのことを話してくれて僕は「僕の」思い出を大切にしたいと思った。
だからやっぱり思い出は僕に掛かっている。
今日、貴方が話してくれたこと。
あの夜、初めて会ったときのことを。
ここに書いて残してしまえば「僕の」思い出ではなくなってしまうのかもしれないけど
それでも少しだけ形にして、今の想いを留めておきたかった。
具体的には書かない。これ以上立ち入ってしまっては消えてしまうから。
ただ僕が「僕の」思い出を思い出すために少しだけ痕をここに残した。
あの夜、初めて会ったときのことを。